Q&A
野生動物に関するQ&A
~まだ信じていますか?イノシシのこんな噂~
出産のピークは、基本的に年1回です。条件によっては、出産のピークが年2回確認されることもあります。
イノシシは、1月~6月頃に発情個体の数が増加します。妊娠期間は約4ヶ月(120日程度)で、平均して4~5頭程度を出産します。生後6~8週程度までは授乳期間となり、授乳中は発情しないため、春に出産して夏まで子育てをしたメスが秋に出産をすることはありません(家畜のブタは、出産後すぐに強制的に離乳することで発情回数を増やします)。
ただし、春の出産に失敗したり、何らかの原因で育児途中に母親から子がいなくなった場合(箱わなで母親以外のウリボウだけが捕獲された場合など)は、もう一度発情が来て秋に出産することも考えられます。
家畜のブタは人間の管理下で10数頭の子を産みます。しかし、野生化ブタの平均出産数は5~6頭程度、野生化イノブタの平均産子数は約4~5頭で、イノシシと差がありません。
また、イノシシは母系の群れを作るので、親と娘達にそれぞれの子がいると、10数頭の大きな群れになる場合もあります。
身体の構造上、基本的に夜行性ではありません。
イノシシは非常に臆病な動物で、人間活動が活発な日中は姿を隠す傾向があります。そのため、人間の視点からすると夜行性のように見えるのです。電気柵の電源を夜しか入れないなどの対策をすると、被害防止効果が低下します。
なお、人間に対する警戒心が低下すると、昼間でも堂々と活動します。
止められません。
イノシシは非常に臆病な動物なので、チョットした環境変化によって一時的に警戒心が増し、行動が変化する場合もあります。しかし、ひとたび臭いや音、光に馴れれば、行動は元に戻ります。これまでの研究でも、イノシシが嫌う音などは確認されていません。
草刈りなどイノシシが嫌がる環境整備を続けていけば、イノシシは警戒して近づかなくなっていきます。
よくある質問編
海外で経口摂取型の不妊薬は研究されていますが、費用対効果の面から野生のイノシシに対して使用することは現実的ではありません。開発研究者も捕獲より効果が低いと指摘しています。
人間も含めたほかの生物に影響する危険を伴うため、劇薬、毒薬等を使用して野生鳥獣を捕獲することは、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律により禁止されています。
去勢したイノシシを放獣して個体数管理をする場合、相当数のイノシシを飼育して放す必要があり、費用などの面から現実的な方法とは言えません。
そもそも、去勢したイノシシをどんどん放した場合、このイノシシによる被害拡大が考えられます。
捕獲による個体数調整は大事な対策ですが、草刈りなどの「環境整備」と、必要な農地・農作物を防護柵で的確に囲う「防護対策」によって多くの被害は無くなります。その上で、個体数調整を行えばより効果的な対策に繋がります。捕獲のみの対策では十分な被害対策とは言えません。
イノシシの生態編
イノシシの特徴
1m程度の高さを飛び越える能力はありますが、柵やその内側に対する警戒心が充分高い場合には、無理に飛び越えることはしません。助走をして高い柵などをジャンプするといった行動をとることは無いようです。
イノシシが周囲に対して警戒していない場合や、狩猟などで追い詰められた場合、高さ数mの土手や石垣などを上り下りすることがあります。
イノシシがどの程度泳げるかは分かりませんが、島から島へ海を渡るイノシシの目撃例も多く確認されています。
条件が良ければ10年程度生きることも可能なようです。しかし、生後3年間の自然死亡率が高く、平均寿命は2~3年程度になります。捕獲圧が高い地域(多くのイノシシが捕獲されている地域)では、平均寿命が2年を下回るという結果も出ています。
視力は0.1以下と言われています。ただし、100m離れた人間を識別するのには十分な能力を持っています。
雑食性で、主に植物の葉や根、果実を食べています。その中で、①ドングリなどの堅果類、②トウモロコシ、③コメ・ムギなどの穀物、の順に嗜好性が強いです。よく「イノシシはイモが大好きらしい」との話を伺いますが、ドングリやトウモロコシなどに比べると嗜好性は低いです。
動物質に関しては、カエルやサンショウウオ、サワガニ、鳥類を食べることが国内の研究で報告されています。ミミズは積極的に食べるわけではなく、偶発的機会によって採食しています。
はい。食べに来ます。
市街地に出没するイノシシが時折話題になります。生ゴミはもとより、田畑などに農作物の収穫残渣などを放置して、イノシシを人間領域に近づけないよう、みんなで注意することが必要です。
イノシシの行動
母親と子供の母系家族による群れで活動します(十分に成長したオスは単独行動)。親娘や姉妹など繁殖能力を持った複数のメス同士とその子供の10数頭の群れで行動することもあります。
イノシシの行動範囲は、餌など生息地域の資源量とその分布によって大きく変化します。島根県での研究事例では1~2km四方が通常の行動範囲のようです。しかし、狩猟などによって追われた場合は10数km移動することがあります。
園芸用ハウス自体がイノシシの行動を抑制する存在ではないため、進入することはあります。
イノシシにとって良好な生息環境が残ったままであれば、戻ってきます。
イノシシ被害対策関連編
被害対策共通
防護柵の効果を最大にするために、事前のしっかりした準備が必要です。
- まず、守りたい場所はどこなのかをしっかり検討して、効率的に柵を設置出来るように地図に整理しましょう。イノシシの進入経路や生息場所を考慮することも必要です。
イノシシは道路や川からも進入してきますので、柵は途切れないように計画します。人間の出入り口も必要に応じて開け閉めが出来るようにして、途切れが無いように設置しましょう。 - 柵設置場所の除草を行いましょう。柵の内側にヤブが残ったままでは、柵の設置後にイノシシから進入される危険が高くなります。
- 実際設置する際、地面が凹凸のまま電気柵を設置すると、電線と地面との間隔に広いところができ、十分な効果を得られません。ワイヤーメッシュ柵を設置する場合も同様で、地面と柵の間に隙間ができると、下から進入される恐れがあります。設置前には必ず、整地をして凹凸を直しましょう。
防護柵の効果を維持していくために、定期的な除草作業や見廻りは必ず必要です。また、柵設置後も環境整備した場所に出没するイノシシは捕獲の必要がありますので、個人もしくは組織での捕獲などを検討してください。
山林から10m以上離れるとイノシシの圃場への出没頻度が低下することが報告されています。山林から柵を10m以上離し、その間を環境整備することが理想的です。理想的な環境整備の実施が困難な場合でも、イノシシが体を隠すことが出来ないように、柵の外側3m以上の環境整備が必要です。
正しく設置して、正しく管理できていれば効果があります。
イノシシの視覚を遮る効果を確実にするために、隙間が無いように設置しましょう。トタン板の外側に電気柵を張ることも効果的です。
「電気柵を導入したから、設置していたトタン板は外す」のではなく、複合柵で効果を高めることも検討してください。
重要なことは、イノシシが体を隠すことができる草むらを作らないことです。金網柵を使用する場合、月に1回程度の草刈りで進入防止効果を維持できます。
一方、電気柵では漏電や放電が発生しないように草刈りする必要があります。
電気柵の下の段の電線は、地面から20cmの高さに設置しますので、夏場は1週間に1度程度の草刈りをしないと効果を維持できない恐れがあります。
ウシやダチョウそのものをイノシシが嫌がるわけではありません。放牧した牛などが雑草を食べることでヤブがなくなり、イノシシの隠れる場所が無くなるため、イノシシの出没が抑えられます。
忍び返し付きワイヤーメッシュ柵
事業上の規定などはありませんが、一般的には1マス10~15cm幅、鉄筋の太さは5~6mm程度のワイヤーメッシュが使われています。溶接強度が強い資材がお勧めです。なお、1マス15cm幅の柵で、草刈りなどの管理をしていないところでは、ウリボウが通り抜ける可能性もあります。
ホームセンターなどで購入できます。
通常、イノシシが追突することはありません。ただし、設置前からイシシシが頻繁に往来していた箇所やヤブが残っている場所は、設置後にイノシシが柵を壊そうとする可能性があります。こうした場合でも、適正に設置されたワイヤーメッシュ柵が短時間で破壊されることはありません。定期的な見廻りや草刈りなどを行うことで、破壊を防ぐことが出来ます。
実際の設置事例を見ると、あまり目立たないようです。実際に設置してある場所を見て、是非ご確認ください。
ワイヤーメッシュ柵と電気柵を比較すると、設置経費はワイヤーメッシュ柵の方が電気柵より高くなります。しかし、耐用年数で案分すると、一年あたりの経費はワイヤーメッシュ柵の方が少なくなります。
また、柵の管理の観点からすると、電気柵は電池や電源代、毎週1回程度の草刈りに係る費用などが必要ですが、ワイヤーメッシュ柵の草刈りは、月1回程度で済みます。
電気柵
2段張りでも十分効果があります。イノシシの鼻が触れやすい高さ(1段目を地面から20cm、2段目を同様に40cm)に電線を設置してください。
電気柵が正しく設置されていない可能性が考えられます。きちんとアースが設置されているか、漏電していないか、必ず確認して下さい。
「管理が不十分な電気柵」や「昼間に電源を切っている電気柵」、「通電していない電気柵」など、効果の無い電気柵が、近隣に設置されている場合、イノシシが線に触れても感電しないことを学習し、電気柵に驚異を感じなくなります。その結果、正しく設置してある電気柵でも、進入防止効果がなくなるケースも考えられます。電気柵は、適切な電圧・電流を維持して初めて効果を発揮する道具であることを認識し、正しく設置・管理しましょう。
わな関連
使用者の好みによりますが、サイズが小さい箱わなでも、1回に群れの全頭捕獲が可能です。
箱わなは、イノシシの群れを全頭捕獲するための道具です。2・3頭しか捕獲出来ない、またはウリボウしか捕獲できない場合、獲り逃したイノシシが箱わなの危険性を学習し、箱わなで捕獲しにくくなる恐れがあります。
捕獲技術講習会などを受講し、正しい運用をお願いいたします。
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則」が平成19年5月25日に改正され、環境省令で定める銃器、網又はわなの中から、「とらばさみ」は削除されましたので、狩猟において、わなとして使用することは出来ません。
その他の質問
イノシシの利用
第一にイノシシの殺処分方法、放血方法、冷却方法など処理方法で味は変わります。処理の方法が悪いと臭みが強い肉となることがあります。
また、年齢、性別でも味が変わります。年齢が進むにつれて味は濃くなり、肉質は堅くなります。
濃い味が好みの人は、肝臓や腎臓などの内臓を好むようです。心臓や赤身は、あっさりしています。赤身の好みは脂身の多少で異なるようです。フィレやモモ、ウデなどは脂身が少なく、バラや背ロースには脂身が多くつく傾向があります。
また、イノシシは寄生虫や病気に感染している場合もあるため、調理する際は豚肉などと同様に、よく加熱してから食べる必要があります。
その他
ばったり出会っても、通常はイノシシが逃げていきます。イノシシが興奮していた場合には、木の上(イノシシが登れないような高いところ)に登るのが最も安全です。
はい。イノシシ(Sus scrofa)は1種類です。ただし、琉球列島のイノシシをリュウキュウイノシシ、それ以外の地域のものをニホンイノシシと2つの亜種(地理的隔絶により差が生じている同種)に分けています。ちなみに、ブタもイノブタも、分類上はイノシシです。
江戸時代に行われた方法を実施すれば、絶滅できる可能性もあります。しかし、現代においては現実的な方法ではありません。以下、対馬での江戸時代の事例を紹介します。
- 刈り剥ぎ:イノシシの隠れ場所をなくす。
4×4kmの区画毎に、イノシシの隠れ場所となる藪の刈り剥ぎを行った。1区画につき、「刈り剥ぎ」で100人×4日、「山焼き」で100人×1日を要していた。 - 捕獲区画の設定:イノシシが往来不可能な柵を構築して地域を区分する。
大垣(高さ1.8m、総延長108km)で対馬を9区分した上に、その内側を内垣(高さ1.5m、総延長492km)で2×6kmの区画に区分した。逐い詰めの際には内垣の内側に逐詰垣を構築し、その中にイノシシを逐い込んだ。 - 垣の管理:事業実施期間中(江戸時代は9年間)は垣の管理が必要となる。
海端と山路には番小屋と戸を設け、戸の開閉を行う番人を置いた。また、垣に修復を要する箇所がないか毎日見回っていた。 - イノシシの捕獲
内垣(2×6km)1区画に対し、600人×犬200頭×1日を投入した。1区画につき1日の逐い詰めが基本となるが、逐い詰め終了後も残存するイノシシの有無を何度も確認(見出し)していた。見出しの担当者が業務を怠ったり、見逃したことを隠蔽したことが発覚した場合には、計3日間の「さらし」といった罰が与えられた。なお、1688年頃には猟師が833人いたという記録がある。9年間で8万余頭のイノシシを捕獲した。 - 江戸時代の状況
対馬には常田畑(毎年作物を栽培する田畑)と木庭(焼き畑。山地や斜面の樹木を焼いて、その跡地に短期間栽培する移動耕作地)が存在したが、常田畑は少なかった(総面積の約3%)。そのため、島の食料供給源として木庭が重要な位置を占めていた。しかし、木庭は山林に開かれるため、猪垣(木垣)の構築を必要とした。さらに、木庭での耕作は猪垣が破損しない2年に限られた上、周囲の樹木が薪に利用されていたために垣の資材となる木材も限られていた。こうした状況下、対馬での食糧不足が深刻となり、猪鹿逐詰に至った。
以上、費用や人員、法律、生態系への影響等多くの問題は存在するが、1から4の手順を実施すれば対馬のイノシシを絶滅できる可能性がある。補足だが、江戸時代の木庭においても猪垣があれば耕作可能であったことは重要である。
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